「The New New Product Development Game」を読んでみた

Happy New Year 2020♪

「The New New Product Development Game」を読んでみました。
Webで読めると、@kawagutiさんに教えてもらいました。ありがとうございます!
ハーバード・ビジネス・レビュー グッジョブ!


The New New Product Development Game

hbr.org

「ハーバード・ビジネス・レビュー」1986年1月号に掲載された論文
著者は、野中郁次郎先生と竹内弘高先生
スクラム」という言葉は、この論文に由来している*1

日本語にすると『新しい"新製品開発"ゲーム』

メモ

リレーアプローチとラグビーアプローチ

今の時代*2、競争の激しい商業新製品開発の世界では、スピードと柔軟性が不可欠
新製品開発において、従来的なシーケンシャルなアプローチの代わりに、全体的な手法(a holistic method)を用いている。
全体的な手法=ラグビーのように、ボールをチーム内でパスしながら、フィールド上で一体(unit)となって移動する。


従来のシーケンシャルまたは"リレーレース"アプローチ
全体的または"ラグビー"アプローチ。チームがユニットとして距離を移動し、ボールを前後に移動しようとする。*3

リレーレースアプローチ
機能スペシャリストグループが次のグループに、順番にバトンを渡す。
例えば、コンセプト開発→実現可能性検証→プロダクト設計→開発プロセスパイロット生産(production)→最終生産(production)
機能(functions)が専門化、セグメント化された状態

ラグビーアプローチ
厳選された(hand-picked)多くの専門分野にわたる(multidisciplinary)チームの絶え間ない相互作用(constant interaction)から、製品開発プロセス*4
が現れる
メンバーが最初から最後まで一緒に働く
開発プロセスは、定義された「高度に構造化された段階」で移動するのではなく、チームメンバーの相互作用から生まれる

タイプA、タイプB、タイプC
タイプA:従来の直線的なリレーレースアプローチ

  • NASAのPPPシステム

タイプB:ラグビーアプローチ。隣接するフェーズの境界のみオーバーラップ。

タイプC:ラグビーアプローチ。複数のフェーズにまたがったオーバーラップ。

新しいアプローチを採用した日本とUSの両方の企業を調査

調査対象の企業*5富士ゼロックスCanon 、ホンダ、NECEpson、Brother、3M、ゼロックスヒューレットパッカードなどの多国籍企業
6つの特定の製品の開発プロセスを分析

「Moving the Scrum Downfield」

Moving the Scrum Downfield
1. Built-in instability
2. Self-organizing project teams
3. Overlapping development phases
4. “Multilearning”
5. Subtle control
6. Organizational transfer of learning

CEOから若いエンジニアまでインタビューした結果、6つの特徴を示しているあることがわかった
「Moving the Scrum*6 Downfield*7*8

これらの特徴は、ジグソーパズルのピースのようなもの。
各要素自体は、スピードと柔軟性(flexibility)をもたらさないが、
全体として見ると、これらの特徴は「powerful new set of dynamics that will make a difference」を生む。

1.Built-in instability:組み込まれた不安定性

トップマネジメントは、「会社にとって戦略的に重要なプロジェクトを実行する」ための大きな自由(great freedom)を与え、非常に難しい要件(very challenging requirements)を設定することにより、プロジェクトチームに緊張の要素を作り出す

2.Self-organizing project teams:自己組織化プロジェクトチーム

チームは「ゼロ情報(事前の知識が適用されない)」の状態に追い込まれると、自己組織化された性質になる。

3つの条件(自治権、自己超越、Cross-fertilization)を示すときに、自己組織化能力を持つ。

Autonomy:自治権
本社(Headquarters)の関与は、最初のガイダンス、金銭、精神的なサポートに限定される
日常的に、トップマネジメントはほとんど介入しない。チームは独自の方向性を自由に設定できる。
ある意味では、トップマネジメントはベンチャーキャピタリストとして機能する。または、ある経営幹部が言ったように「財布の口は開けるが、口は閉じたままにする」。

Self-transcendence:自己超越
チームは、「限界(the limit)」への終わりのない探求(never-ending quest)に夢中になっているように見える。
トップマネジメントによって定められたガイドラインから始めて、彼らは自分たちのゴールを確立し始め、開発プロセスを通して高め続ける。
最初は矛盾したゴールに見えたものを追求することによって、現状をオーバーライドして大きな発見をする方法を考案する。*9

Cross-fertilization:相互交流*10

さまざまな機能の専門性(varying functional specializations)、思考プロセス、行動パターンを持つメンバーで構成されるチーム。
多様性が、新しいアイディアやコンセプトを育む。

多様性のあるチームを選択することは重要だが、メンバーが相互作用し始めるまで、相互交流(cross-fertilization)は実際に行われない。
富士ゼロックスは、計画、設計、生産、販売、流通、評価部門のメンバーで構成チームをひとつの大部屋に配置した。
ステップ

  • チームメンバー全員が1つの大部屋にいる場合、誰かの情報が試さなくても自分のものになる
  • 自分の立場だけではなく、グループ全体にとって、何がベストで何が二番目にベストかを考え始める
  • 誰もが相手の立場を理解していれば、一人ひとりが喜んで与える(more willing to give in)ようになるか、少なくともお互いに話をしようとする。
3. Overlapping development phases:重なり合う開発フェーズ

自己組織化の特性は、ユニークなダイナミックまたはリズムを生み出す。
チームメンバーは異なる時間範囲(time horizons)でプロジェクトを開始するが、期限に間に合うようにペースを同期することを全員が行う必要がある。
また、チームは「ゼロ情報」から開始するが、各メンバーは市場と技術コミュニティに関する知識をすぐに共有し始める。
その結果、チームはユニットとして機能し始める。ある時点で、個人と全体が切っても切れない状態(inseparable)になる。
個人のリズムとグループのリズムが重なり合い始め、まったく新しいパルスを作り出す。
このパルスが原動力となり、チームを前進させる。


リレーレースアプローチでは、プロジェクトはいくつかのフェーズを段階的に進み、前のフェーズのすべての要件が満たされた後にのみ、あるフェーズから次のフェーズに移行する。
ラグビーアプローチでは、フェーズがかなり重なり合うため、開発プロセス全体で発生する振動や「ノイズ」を吸収できる。
ボトルネックが発生すると、ノイズのレベルが明らかに増加するが、プロセスが突然に停止することはない。チームはなんとか前進することができる。


富士ゼロックスは、PPPシステム(タイプA)を引き継いだが、2つ方法で改訂した。

  • いくつかのフェーズを再定義し、集約することで、フェーズの数を減らした。
  • 直線的なシーケンシャルシステムを「刺し身」システムに変更した。刺し身は、皿の上に魚のスライスを並べたもので、スライスは他のスライスと重なり合う。

刺し身は、富士ゼロックスのアプローチ
ラグビーは、ホンダのアプローチ

  • ラグビーチームのように、コアプロジェクトメンバーは最初から最後までそのまま(stay intact)で、すべてのフェーズを結合する責任(responsible )がある。

リレーアプローチでは、次のフェーズに渡すポイントで重大な問題が発生する傾向がある。
ラグビーアプローチでは、フェーズ全体で連続性を維持することにより、この問題を解決している。


メリット
"ハード"メリット:速度(speed)と柔軟性(flexibility )の向上が
"ソフト"メリット:ヒューマンリソース管理に関連する一連のメリット

  • 共有された責任と協力(cooperation)を強化(enhances)
  • 関与(involvement)とコミットメントを刺激
  • 問題解決の焦点をはっきりとさせる(sharpens a problem-solving focus)
  • イニシアチブをとることを奨励
  • 多様なスキルを開発
  • 市場の状況に対する感受性を高める

デメリット
集中的なプロセスを管理しなければいけないことから生じる。
チーム全体とのコミュニケーション、サプライヤーとの緊密な関係の維持、緊急時対応計画の準備、サプライズへの対応。
このアプローチは、グループ内でより多くの緊張と対立を生み出す。
「誰かが100個のうち1個を良いと思ったら、前に進んでいる明確な兆候。しかし、誰かが100個のうち1個を良くないと思ったら、私たちは最初からやり直さなければならない。この認識のギャップは対立を生み出す」


重なり合う開発フェーズは、分業(division of labor)についての従来の概念を打破する。
分業は、タイプAではうまく機能する。そこでは、マネジメントがタスクを明確に描き、すべてのメンバーが自分の責任を知ることを期待し、それぞれを個別に評価する。
タイプBまたはCでは、“shared division of labor”*11と呼ばれるものを通して、会社はタスクを達成し、
プロジェクトのあらゆる側面で各チームメンバーが責任を持ち、それに取り組むことができる。

4. “Multilearning”:"マルチラーニング"

学習は、複数のレベル(Multilevel learning)と複数の機能(Multifunctional learning)の二軸。この2つが「マルチラーニング」

Multilevel learning

Multifunctional learning
自分の専門分野外の経験を積むことを推奨する

  • Epson:エレクトロニクス分野について、最初はメンバー全員がほとんど知識がなかったが、リーダーがプロジェクト中に母校に戻って学び、2年後には全員が知識を得ていた。
    • 「2つの技術分野(technological fields)とデザインとマーケティングのような2つの機能エリア(functional areas)」
    • エンジニアリング志向の企業でも、マーケットの発展を予測する能力なしでは前に進めない
5.Subtle control:緻密なコントロール

チームは主に独力だが、「コントロールしない」わけではない。
マネジメントは、不安定性、曖昧、緊張がカオスに変わることを防ぐためのチェックポイントを確立する
と同時に、創造性と自発性を損なうような厳格なマネジメントを避けている
代わりに「セルフコントロール(self-control)」「ピア・プレッシャー(control through peer pressure)*13によるコントロール」「愛によるコントロール(control by love)」を行う。総称して「緻密なコントロール(Subtle control)」

7つの方法で行う。

  • 1.グループダイナミクス(集団力学)の変化を監視し、プロジェクトチームに適切な人材(the right people)を選択
  • 2.(富士ゼロックスの大部屋のような)オープンな作業環境
  • 3.エンジニアが現場(field)に出て、「顧客やディーラーが言わなければならないことを聞くこと」を奨励(Encouraging)
  • 4.グループのパフォーマンスに基づいた評価・報酬システム
  • 5.開発プロセスを通したリズムの違いを管理
  • 6.間違い(mistakes)の(容認(Tolerating)と予測
  • 7.サプライヤに自己組織化を促す
    • 何をすべきか(what to do)ではなく、問題を説明する
6.Organizational transfer of learning:学習の組織的な移転

グループ外の人々に学習を移転(transfer)する*14

その後のプロジェクトや別の部署への学習を移転が定期的に行われる
プロジェクト活動を標準的なプロセスに変換することによって、組織に知識が伝わる
企業は、成功から得られた教訓を制度化しようとする

しかし、行き過ぎた制度化は、それが自体が危険を引き起こす可能性がある。
外部環境が安定している場合、過去の成功体験からの標準プラクティス化はうまくいく。
しかしながら、環境の変化は、それらの教訓(lessons)をすぐに非実用的(impractical)にする。

アンラーニング(Unlearning)は、チームが外部環境の現実性(the realities)と調和を保つことに役立つ。
また、漸進的な改善(incremental improvements)のためのきっかけ(springboard)となる。

多くの場合、アンラーニングは環境の変化によって引き起こされるが、
いくつかの企業は、意識的にアンラーニングを追求している。

Some Limitations:いくつかの制限

製品開発について、ラグビーアプローチ(The holistic approach)は、すべての状況で機能するとは限らない。

  • プロジェクトの全期間でメンバーの途方もない努力(extraordinary effort)が必要。ピーク時には月100時間の残業、それ以外は60時間の残業になることがある。*15
  • 革新的なイノベーション(revolutionary innovation)を必要とする画期的な(breakthrough)プロジェクトには、当てはまらないかもしれない。
  • 航空宇宙企業(aerospace business)のような大規模(mammoth)プロジェクトでは、当てはまらないかもしれない。規模が大きすぎてフェイス・トゥ・フェイスのディスカッション(face-to-face discussions)が制限される。
  • 一人の天才がイノベーションを発明して(makes the invention)、配下の人々が明確に定義された仕様従う組織には、当てはまらないかもしれない。

いくつかの制限(Some Limitations)は研究範囲に由来する。少数の企業サンプルに限られており、ほとんどの場合、日本企業を観察することで得られた調査結果である。従って、一般的な結論を導くには注意する必要がある。

Managerial Implications:マネジメント層との関連

環境の変化(競争の激化、大規模な市場の分裂、製品ライフサイクルの短縮、高度な技術と自動化)により、マネジメント層は従来の製品開発方法を再考せざるを得なくなった。

スピードと柔軟性を実現するには、製品開発プロセスを異なる方法で管理しなければならない。
3種類の変化を検討するべき。*16

1.プロセスを促進できるマネジメントスタイルを採用する
製品開発が線形的で静的に行われることはほとんどなく、試行錯誤の反復的で動的なプロセスが含まれる。
2.異なる種類の学習
従来のアプローチでは、有能なスペシャリストのグループが新製品開発を行う。
対照的に、新しいアプローチでは、非専門家が製品開発を行う。
3.新製品開発に異なるミッションをアサインする
多くの企業は、新製品開発を将来の収益源として扱ってきたが、一部の企業では組織に変化をもたらす触媒としても機能する。

近年、環境は劇的に変化しており、世界の市場で効果的に競争するためのゲームのルールは変更された。
製品開発のスピードと柔軟性を達成するために、試行錯誤とそれによる学習に依存する動的プロセスの利用が必要。
私達に必要なのは、絶え間なく変化する(constant change)世界の中での、絶え間ないイノベーション(constant innovation)である

ここからは、個人的な感想

まず、
・論文は約35年前に掲載されたもの
・1976~1982年の少数の製造業の新製品開発プロセスを分析した調査結果であり、約40年前のこと
であることに留意したい。
ソフトウェア開発ではないし、スクラムそのものではない。

その上で、2020年の今でも大切だと感じる部分が多いし、新たな発見も多い。*17
「たしかにスクラムの原典だ」と感じられる内容だった。
自己組織化、アンラーニング、コマンドアンドコントロールでないマネジメントなどが、約35年前に既に言及されていたなんて!
あと、トヨタが出てきそうで出てこない

わからないことがまた増えた。*18
ここからどうスクラムに繋がったかをさらに詳しく知りたくなった。
取り入れた要素や取り入れなかった要素、変化した部分もあるはず。
例えば、残業100時間の話は、どう考えても持続的でないはずだが、Scrumはこの問題をどのように解決したのか?

この論文を読んだきっかけの動機の一つである「何故『Scrum』なのか」の謎は解けなかった。更に謎が深まった。
「Moving the Scrum Downfield」から取ったことは想像できるが、
何故「Moving the Scrum Downfield」なのか?
例えば「Moving the Rugby Downfield」でも良いように思えるのだが、「Scrum」にしたは意味はあるんだろうか?
謎は深まるばかり。知りたい。

あわせて川口さんのメモを読み参考にさせて頂いた(10年以上前だった)
kawaguti.hateblo.jp

*1:https://www.scrumalliance.org/about-scrum/definition

*2:今の時代=1986年、つまり30年以上前

*3:ラグビーは、前方向へのパスができないため、チームは、ユニット(塊)でフィールドを移動しながら、ボールは移動するチームの中でパスされ、前後にじぐざぐな軌道を描く。これをラグビーアプローチと表現していて、従来のシーケンシャルなリレーレースアプローチと対比していると想像する

*4:ここで言及されるプロセスは、工程のこと?

*5:トヨタが含まれていないことが興味深い

*6:論文の中で「Scrum」という単語が出てくるのは「Moving the Scrum Downfield」の一箇所のみ。これがスクラムの由来だと推測。ラグビースクラムとの関係はよくわからない。

*7:「Downfield」はアメフト用語で、ディフェンス側のエリア(領域)を示すものらしい。ラグビーの文脈では検索しても見つからなかった

*8:スクラムを組んだ状態で、フィールドを移動するイメージなのか?

*9:「Built-in instability」と同じに思えるが、違いはなんだろう?

*10:日本語訳が難しい。相互受精?相互交流?異種交配?

*11:分業の共有?どういう意味?

*12:e.g.トレーニン

*13:同調圧力

*14:このあと、アンラーニングの話が出てくることがポイントっぽい

*15:これは持続的でないし、この制限はデメリットが大きいと思う。Scrumはこの問題をどのように解決したのか?

*16:この3つの説明を短くまとめられなかった。原文を読んだほうがいい

*17:それでも、日本のソフトウェア開発はうまくいってないんだから、何かが狂っているんだろう

*18:そもそも、英文を訳しながら読んだから、理解があっているか不安