「なんでラグビーのスクラムなの?」とずっと思ってた

アジャイルの文脈にでてくる「スクラム
名前の由来は、スポーツのラグビースクラム

私は、ずっと疑問に思ってた。
「なんでラグビーなの?」
「なんでラグビースクラムなの?」
野球じゃないのはなんとなくわかるけど、サッカーやバスケじゃなくて、なんでラグビー

……と思っていたアレコレを書くつもりが、私にまとめる力がなかった。
論理的に繋がってない部分やわかりにくい部分もあるが、時間もないので諦めた。
内容も自信はないので、是非フィードバックください。*1

スクラムの名前の由来

Scrum AllianceのDefinition of Scrumを見ると、スクラムの名前の由来について記述がある。

The term Scrum comes from a 1986 Harvard Business Review article in which authors Hirotaka Takeuchi and Ikujiro Nonaka made an analogy comparing high-performing, cross-functional teams to the scrum formation used by rugby teams.

雑訳

スクラムという言葉は、1986年のハーバード・ビジネス・レビューの論文に由来しています。この論文では、著者の竹内弘高と野中郁次郎が、ラグビーチームで使用されているスクラムのフォーメーションに、ハイパフォーマンスでクロスファンクショナルなチームを例えています。

スクラム」という言葉は、日本人の竹内弘高氏と野中郁次郎氏が書いた論文『The New New Product Development Game』に由来する。
この論文に影響を得て、スクラムが誕生した。
つまり、影響を受けた論文にあやかって、「スクラム」という名前を名付けたようだ。

Core Scrum勝手に注釈付き参考文献 - スクラムガイド日本語版に更に詳しい記載がある。

論文以外にも、ジェフ・サザーランド氏のパイロット経験や組織パターン*2など様々なものに影響を受けてスクラムは生まれた様子。
組織パターンの拡張としてのスクラム*3が発表されたこともあった。

アジャイルとリーンの図*4

The New New Product Development Game

スクラムの言葉の由来となった論文「The New New Product Development Game

1986年1月に「ハーバード・ビジネス・レビュー」に掲載。
著者は竹内弘高氏と野中郁次郎氏。
タイトル「The New New Product Development Game」は、日本語に訳すと『新しい"新製品開発"ゲーム』。
日本とアメリカの企業*5の製造業の新製品開発を調査・分析し、共通的に見られた新しいアプローチについて論じている。

ラグビーアプローチと「Moving the Scrum Downfield」

従来型のシーケンシャルな方法を「リレーアプローチ」、新しい全体論的な方法を「ラグビーアプローチ」と称している。
ラグビーアプローチに共通した6つの特徴を「Moving the Scrum Downfield」と名付けている。
6つの特徴は、パズルのピースのようなもので、全体が組み合わさることで初めて、スピードと柔軟性をもたらすそうだ。

Moving the Scrum Downfield
1. Built-in instability
2. Self-organizing project teams
3. Overlapping development phases
4. “Multilearning”
5. Subtle control
6. Organizational transfer of learning

内容についてはスクラムの原典を読み解く(1):An Agile Way:オルタナティブ・ブログスクラムの元になった資料 - [ハーバードビジネスレビュー] New New Product Development Game - kawaguti’s diaryが詳しい。

*6

野中郁次郎氏と竹内弘高氏の著書は未読であるため、読んでみたい。

知識創造企業(新装版)

知識創造企業(新装版)

サシミ

f:id:kobase16:20210104204023p:plain*7
スクラム関連の話題で時々耳にする「サシミ(Sashimi)」もこの論文で登場する。
リレーとラグビーの間の各工程のはじめとおわりが重なったアプローチをサシミと呼んでいる。

ときどき見かけるこういう図。*8
f:id:kobase16:20210104204121j:plain

トヨタとの関係性

ちなみに、本筋からは逸れるが、調査対象の企業にはトヨタはない。

TPS(トヨタ生産方式):生産工程、つまり、工場で作る段階の方式。リーンの源流。
TPD(トヨタ流製品開発):生産工程より前の製品開発の企画や設計(?)

2020年版のスクラムガイドで、「リーン思考」との関係性が追加された*9が、それはこの論文ではなく別の影響によるもののはず。

スクラムの名前の由来?

論文の中で、スクラム(Scrum)という単語は「Moving the Scrum Downfield」の一箇所だけに登場する。一箇所しか無いため、ここから「スクラム」という名前を取ったのは間違いなさそうだ。

しかし、論文を読んでも
「なんでラグビーなの?」
「なんでラグビースクラムなの?」
という疑問は、解消できなかった。
「サッカーやバスケでいいんじゃないの?」と思ったままだった。

そこで、ラグビーを知ることにした。

なんでラグビー

私は、ラグビーとアメフト*10の違いもよくわかっていない。@sorano_tarouさんにはに教えてもらったり(感謝!)、Webで調べたりした。

そもそも、ラグビーなのは、ただの偶然かもしれない。

歴史

サッカー、ラグビー、アメフトの源流は同じ。
「現代サッカー(フットボール)になる前の原始フットボール」の試合中にボールを持って走り出した選手がいた。イギリス(イングランド)のラグビー校で行われていた試合であったことに由来して「ラグビー」(諸説あり)。*15
更に、ラグビーから分岐して、アメリカンフットボールが生まれた。*16

アメフトとラグビーの違い

ラグビーとアメフトは、似ているイメージがあったが、調べてみるとゲーム性(競技性)が異なるスポーツだと個人的には感じた。サッカーとラグビーのほうが似ていると思う。
(やったことないから不安だけど)

楕円形のボール、手で持つこと、ゴールの方法、タックルなどは共通点は多いが、違う部分も多い。

ラグビー アメフト
イギリス発祥 アメリカ発祥
15人 11人
ボールは白 ボールは茶色
試合時間:40分✕2 試合時間:15分✕4
トライ タッチダウン
前にパスができない 一度だけなら前にパスができる
ボールを持った選手にのみタックルOK 誰にタックルしてもOK
革製のヘッドギアのみ、付けなくてもOK ヘルメット、ショルダーパッドなど防具必須
サッカーやバスケのように攻守交替はない 野球のように攻守交替がある*17

ちなみに、ラグビーにはスクラムがあるが、アメフトにはない。*18

ラグビーの特徴

ラグビー独自の特徴という意味では、こういうところだろうか?

One for all, All for one

特に「One for all, All for one」を調べてみると、かなり興味深い。
元々はデュマの「三銃士」が起源*20として、ラグビーでも使われるようになったらしい。
「One for all, All for one」を日本語にすると「みんなはひとりのため、ひとりはみんなのために」
……だと思っていたのだが、どうやら違うらしい。

元日本代表監督の平尾誠二氏よると
「みんなはひとりのために、みんなはひとつの目的(勝利)のために」*21*22
という意味(日本語訳)のようだ。

また、五郎丸ポーズで有名な[五郎丸選手のブログには、こうある。

「自分の勝利はみんなの勝利。みんなの幸せが自分の幸せ。」
こんなふうに思えるようになったら、素敵な大人になっていけると思いませんか?
それぞれの個性を活かし、みんなでひとつの目標に向かって頑張るこのスポーツ、自分を大きく成長させてくれるラグビーに、これを機に少しでも興味を持ってもらえたら嬉しいです。


「みんなでひとつの目的(勝利)のために」や「みんなでひとつの目標に向かって頑張る」は、(アジャイルの)Scrumや「The New New Product Development Game」が目指すイメージに近いと、個人的には思った。

ラグビースクラム

ラグビースクラムは、ボールを前に落とす(ノックオン)、前にパスする(スローフォワード)などの反則行為で中断した場合の試合再開のセットプレー。
スクラムに参加するのは、フォワードと言われるポジションの8人の選手。両チームのフォワードがボールの取り合いを行う。*23
スクラムは、肩ではなくて、腰で組む(らしい)。

ちなみに、2019年のワールドカップの日本代表のスクラムは新しい戦術を取り入れていたらしい。

語源

skirmish(小競り合い)

スクリメージ(scrimmage、小競り合い)

スクラメージ (scrummage)を短縮して

スクラム

語源で見ると、とても物騒。

仮説「ボールを前にパスできない」から

サッカーにもアメフトにもない*24ラグビーの特徴として、
「ボールを前にパスをできない」がある。

  • ラグビーはボールが価値。
  • ボール(を持った選手が)を常に先頭とする。
  • 先頭を追い抜いてはいけないため、前にパスするのはNG。(「スロウフォワード」という反則になる)

ということらしい。*25

その目線で、「The New New Product Development Game」を読むと、ある一文に目がとまった。

a holistic or “rugby” approach—where a team tries to go the distance as a unit, passing the ball back and forth—

雑訳

チームが一体となってボールを前後にパスしながら距離を移動する「ラグビー」のような全体論的なアプローチ

言葉で言い表すのは難しいのだが、
前にパスができないから「ボールを持った先頭の選手が横や後ろの選手にパスしながら」「チームとしては、ゴールに向かって前に動き続ける」動きをする。
その動きが非線形的でジグザグな「チームが一体となってボールを前後にパスしながら距離を移動する」動きになるのでは?という仮説を思い至った。
イメージはScrum Approachの図に近いかも。

これはアメフトにはない動きのはず。
サッカーではできるが、あくまで数ある戦術のひとつになるはず。*26
基本的な戦術で、ボールとチームがこの起動を描くのは、ラグボーだけなんじゃないか?*27

あくまでラグビー素人による仮説に過ぎないが、
「なんでラグビーなの?」の答えとして「ボールを前にパスできない」という仮説を考えてみた。

しかし、「ラグビースクラム」の理由は、まだ謎のまま。
何故「Moving the Scrum Downfield」なのか?
例えば「Moving the Rugby Downfield」でも良いように思えるのだが、「Scrum」にしたは意味はあるんだろうか?

なんでスクラム

野中先生と共感

少し、話は変わる。
2019年に開催されたScrum Interaction 2019で野中先生の「Humanizing Innovation -共感の経営-」という講演があった。

講演の内容の一部を書く。*28

  • 同感と共感は異なるもの
    • 同感(Sympathy)は、主観が残っている
    • 共感(Empathy)は、他人になりきる
  • SECIモデル
    • SECIモデルは、共感(共同化)からはじまる
    • はじめに共感ありき、そこからコンセプトにつなげる
    • 知というものは、個人・単独で生まれてくるものではない
    • 対話、共感から生まれてくる
    • 個人と個人の共感、から、グループの対話。個人→集団→組織。
    • 絶えず対話を通じて共感のベースがないと、イノベーションは生まれない

人と人のつながり、共感*29*30、そこから生まれる創造性を大切にしているのだと、個人的に感じた。

野中先生がジェフ・サザーランドに「合宿しなさい!」と言ったエピソード*31も印象的。

共感経営 「物語り戦略」で輝く現場

共感経営 「物語り戦略」で輝く現場

Overlapping People

そして、Regional Scrum Gathering Tokyo 2020のJames Coplien氏の講演で、興味深い話があった。
講演自体は「A Scrum Book」についての内容。*32

動画のこの辺り。
www.youtube.com
すごく意訳すると
「工程が重なり合うのは、サシミ。では、人が重なり合うのは?」と言っている。
その答えは「スクラム*33

流石に冗談やこじつけだとは思うのだが、
「人と人との重なり合い」は、人の繋がりや共感を大切にする野中先生の講演内容とも共通点を感じ、違和感はなかった。しっくりくる。
人と人の関係を大事にしているからこそ「スクラム」だったらおもしろい話である。


……結局「なんでラグビースクラムなの?」の答えは、わからなかった。
現実的には、ラグビーの代名詞としての「スクラム」や比喩表現の「一致団結=スクラム」説の可能性が高そうか?

まとめ

偶然か必然か

「なんでラグビーなの?」
「なんでラグビースクラムなの?」
この疑問が解けたかというと、そうではない。

しかし、私のなかでずっと思っていた疑問が、一旦落ち着き、あまり気にならなくなった。

私の個人の感想としては、サッカーやバスケのほうがわかりやすいと思うことは変わらない。ハイキュー!!*34が流行ってるし、バレーボールもいい。
でも……ラグビーも十分にハマる。そう思えるようになった。

偶然か必然か。*35
それはわからないが「ラグビースクラム」であることは違いない。

この話のオチ

前述のScrum Interaction 2019Scrum Interaction 2019での野中先生の講演メモを見返していると、衝撃の発言を発見した(?)
ラグビーって言ったのは偶然」

偶然かよ!!*36

明日から開催のRSGT2021の平鍋さんのセッション*37には注目したい。
そして、クロージングキーノートは野中先生!

ラグビースクラムになった理由も聞けるかも?

*1:スクラムラグビーもサッカーもアメフトもやったことがない素人が、自分の疑問を解消するために調べた小学生の夏休みの自由研究レベルです。あくまで現時点での私の理解です。歴史詳しくないし、本人に聞いたわけでもないし、自信はありません。

*2:おそらく書籍の「組織パターン」の前身 https://www.amazon.co.jp/dp/B00G9QJ1ZO

*3:http://jeffsutherland.org/scrum/scrum_plop.pdf 日本語版:https://web.archive.org/web/20160304123321/https://www.metabolics.co.jp/XP/Scrum/Scrum.html

*4:https://kawaguti.hateblo.jp/entry/20130217/1361047033

*5:富士ゼロックスCanon、ホンダ、NECEpson、Brother、3M、ゼロックスなど

*6:2021年に第二版が出版予定

*7:@pineapplecandyさんに頂いたお刺身の写真

*8:https://www.slideshare.net/hiranabe/nonaka-scrum-the-new-new-product-development-game-seci-model-the-us-marin-and-fractal-organization/13

*9:https://scrumguide-ja.kdmsnr.com/#%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%A0%E3%81%AE%E7%90%86%E8%AB%96

*10:アメフトを知るために「アイシールド21」を読んだ

*11:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%87%8E%E4%B8%AD%E9%83%81%E6%AC%A1%E9%83%8E

*12:https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%A0/

*13:フットボールのほうが表現正しそうだけど、わかりやすさ優先でサッカーとする

*14:ラグビーユニオンとラグビーリーグの2種類あるらしい。ここで説明するラグビーは「ラグビーユニオン」のはず?

*15:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC

*16:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB#%E3%83%95%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%9C%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%88%86%E5%8C%96

*17:例外はある

*18:アメフトには、スクラムから派生したスクリメージがあるが異なる性質のものだと思う

*19:襟付きのシャツなのは、試合後のパーティーに参加するためだったらしい

*20:諸説あるようだ https://www.rugby-worldcup-j.com/2019rugby-worldcup-source

*21:https://tokyo-futsaler.blog/archives/20190630-rugby-proverb.html

*22:https://note.com/ss_morioka/n/n8d4e9222f517

*23:詳しくは https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%A0_(%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC)#%E3%83%A9%E3%82%B0%E3%83%93%E3%83%BC%E3%83%A6%E3%83%8B%E3%82%AA%E3%83%B3

*24:と言い切るには、アメフトに関しては微妙かも

*25:要出典

*26:トライアングルや5レーンは近いかも

*27:キックはあるんだけど

*28:講演メモからの起こし https://kobase16.hatenablog.com/entry/2019/11/09/011305

*29:日本語の「共感」は複数の意味を持ってるからややこしい。ここでは、シンパシー(Sympathy)、同感、同調、同情とは異なるものと私は捉えた

*30:野中先生の言葉ではないが、私の好きな共感の説明「相手の世界に敬意を払いながら、純粋な気持ちで興味を持って相手の心に目を向ける」こと

*31:https://www.slideshare.net/hiranabe/nonaka-scrum-the-new-new-product-development-game-seci-model-the-us-marin-and-fractal-organization/57

*32:Webで見るなら http://scrumbook.org/

*33:うろ覚えだが、3人で肩を組んでスクラムを表現していた

*34: https://speakerdeck.com/kawaguti/haikyuu-and-scrummasterway

*35:「この世には偶然なんてないわ あるのは 必然だけ」なんて

*36:私の聞き違いかもしれない

*37:https://confengine.com/regional-scrum-gathering-tokyo-2021/proposal/14725/nonakas-scrum-revisited